風と羅針盤


壊れた時計みたいにとんでもないところを指す心


東西南北しかないのに「上へ!上へ!」と高らかに叫ぶわたしの羅針盤


風の吹かない街にはとても住めないから


きみのことは諦めるよ 

雪とメイセル


「ねえ、ロビン!」


「なんだい、メイセル?」


「雪って、冷たいけど、あったかいんだね。ぼく、毎日が雪だってかまわないよ!」


(ばっかじゃないの、あいつら。雪ごときではしゃいじゃってさ・・・)

青空の下にいても、嵐の渦中にいる人を思うこと 

夕陽に照らされた蜘蛛の巣に、


透明な蝶を見る・・・ 

自画像


鏡を見ずに 自画像を描く



青白さに 自嘲を込めて 

世界


世界は輝きと汚濁にまみれている。



哀しみのすぐ隣には喜びが顔を覗かせている。



逢いたい人の名前を、何度でも心の中で呼ぼう。



応えがなくとも、たしかに声はこだまする。 

月の気持ち


月は地球に恋してる


そして 完全な太陽に嫉妬してる


月の涙は海になり


満ちては引いてを繰り返してる



伝えられない想いを


泣き笑いの裏側に隠して


もどかしい距離を


保ちながら


ずっとずっと


切ないダンスを踊ってる



月は地球に恋してる……


蒼いひとみに恋してる…… 

世界の中心 に 愛を叫ぶ


たぶん 今 僕のいる この場所は


世界の中心なんかじゃないけれど


世界の果てでもないって わかるんだ


君が隣にいるなら



嫌いだった名前 すこし好きになったのは


君が呼ぶから



鏡の中の自分 見つめ返して励ませるのも


君が笑ってくれるから



進んでは また 戻るような毎日に


結局 意味なんかなくても


夜が明けるたび 日が沈むたび


君をとおして 世界の中心にむかって叫ぶだろう


愛してるって



死んで 生まれて 


笑って 泣いて


残酷で不条理な ふしぎと眩しいこの世界にむかって



それでも やっぱり


愛してるって



自分の身は自分で守るしかない


そんな言葉真に受けて

頭だけ必死で守ってる


スカスカの頼りない兜だよ

銃弾だってすり抜ける


ああ、


守るはずの「身」は何処いった?


兜 すかすかの兜


見えないの 気付かないの?

あなたの 肋骨だよ



心は そこにあるのに

あるはずなのにね


薄いくちびる


伝えたいんだ


きみにぼくのすべてを



乾ききらないかさぶたに


隠された苦い秘密を



砂漠に埋もれた水脈を


一緒に探してくれないか


嘘みたいに


気が遠くなるような話さ



鋼色した空の下


靴音だけが響いてた


ぼくは何かに怯えてた


影だけが濃い輪郭をなしていた



それは秋のことだった


まだ木々が紅く染まる前


陳腐な言葉が意味を失う前だった


ふたつの運命が別れたのは




ああ


伝えたいんだ


きみにぼくのすべてを



金木犀が月明かりの香りを


いっぱいに注ぐとき


どこかのオーケストラが鳴り止む


ぼくらのお気に入りのぶち猫も座り込むさ


陽光に焦がれて……




伝えたいんだ


きみにぼくのすべてを



こんな人恋しい夜だから


薄いくちびるに意味を持たせたい


ただそれだけなのさ 

『キス』



『 毎日ここで、キスをしよう。 』


買えない指輪の 代わりにした約束


君は今でも 覚えている?



『 時計なんか、要らない。 』


せっかちな太陽を 笑ったけど


三本の針は確かに 僕の胸を刺した




夏の淵で 永遠が融け始めてたプール 


青か緑かなんて 気にしている暇はないんだ



離れていても 僕ら 同じだけ年をとる


特別な場所も いつか 通り過ぎるだけになる




このまま 時間を 止めたいよ


君の下手くそなキスが 


いつか 誰かのせいで


上手くなるくらいなら 

モノクローム


あんまり楽しかった想い出は


輝いて


眩しくて


やがて目には見えなくなってしまう




あんまり哀しかった記憶は


暗く


穴が開いたように


いつしかどこかへ消えてしまう




しろ



くろ









モノクロームの心は


いつも虹を追い求める


足早に過ぎゆく季節の


鮮やかな色たちを……