【 魔 法 を か け た の は 誰 ? 】



今日はいつもより3時間も寝坊してしまった。起きたとき家には誰もいなかった。

番人は女王様に呼ばれていったし、ネリもマリーゴールド達のところへ出かけたみたいだ。

二人のどっちかに絵のモデルになってもらおうと思ってたのに。困ったなあ。


せっかくのお天気だし、メイセルか、ちょっと遠いけど詩人のところまで行って描かせてもらおう。

ぼくは昨日ひばりに教わったばかりの歌を歌いながら、木の出っ張りに引っ掛けてある上着をとった。

急に外から冷たい風が入ってきたのはちょうどその時だったんだ。


「こんにちは」


扉を開けたのは、いつでもどこでも一番会いたくない魔女見習いのウィッカだった。

相変わらず片方のまゆげを器用に持ち上げて、皮肉っぽく笑っている。


「せっまい家!好き好んでこんな所に住むなんて番人ておかしいわね。あんた達ならともかく。

狭いだけならまだ救いようがあるけど、こんなに汚いともうどうしようもないわ」


どうしてただの挨拶がこんなに意地悪になるんだろう!

何の用があってわざわざぼくの家になんか来たんだろう?


それまでの良い気分は、突然の侵入者のせいでぶちこわしになった。

ぼくは、こんなやつグラッサさまに永遠に杖をもらえなければいいのに、と心底思ったのに、

なぜか口から出てきたのは、こんな言葉だった。


「ねえウィッカ。良かったらぼくの絵のモデルになってよ。  ここに立っていてくれるだけでいいからさ」


不思議と素直に魔女は帽子を脱いだ。そして少し足を開いて腕を組んだ。

いちいち威張るのが癖なんだ。


「これでいいんでしょ?」


ポーズをとってくれたのはありがたいけど、ウィッカはずっと小ばかにしたような、怒ったような顔をしていた。

キャンバスには背景の色ばかりが進んで、肝心の顔はなかなか描けなかったんだ。


二時間描き続けたところで、ぼくはお腹も空いてきたし、ちょっと休むつもりで言った。



「そろそろ、お昼にしようかな? 番人も帰ってくるころだし」



筆を置いて顔を上げたとき、ぼくは、誰かがウィッカに魔法をかけたのかと思った。

それほどウィッカは別人になっていんだ。

今までに一度も見たことの無い、照れたような、でも誇らしげな表情に。


ぼくはしかめっ面じゃないウィッカを一生懸命描いた。

しばらくすると魔女は飽きて帰ってしまったけど。



ぼくの筆は嘘をつかない。頭にくるけど、あの時ウィッカはきれいだったんだと思う。