【 お か し な 旅 人 】
今日は森におかしな旅人が来た。
『かめら』という変な道具でぼく達のことを撮りたいっていうんだ。
撮るって、どういうことだろう?
ぼくは知らない名前の亀だなと思っていたから、旅人が胸ポケットから『かめら』を取り出したときには、心底びっくりした!
(あんなに四角い甲羅のカメ、見たことある?)
そっと耳打ちすると、
(一度もないわ)
ネリも首を振った。
真四角の甲羅には何の模様もなく、一面つるつるの銀色で、太陽にぎらっと光るのはこわいくらいだった。
番人は興味津々で覗き込んでいるし、熊のメイセル(ほとんど大人に近い体格になった)は
”かめら”の銀色に魚の腹を思い浮かべて殆どよだれを垂らしそう。
「なぁに、何も難しいことはありません。
さっきまでのように笑いながら、この箱を見てください。…ね、ここの丸いところですよ」
ぼくらは二、三歩下がって男のいうとおりにした。
「そうそう! そのまま、そのまま、あ、でも動かないで」
「動かないで、だって! 肖像画でも描く気なの、おじさん?」
びっくりしてぼくが叫ぶと、風変わりな旅人は顔を赤く輝かせて何度もうなずいた。
「そうそう! そうなんですよ。
この道具はね、たった一秒で、誰よりも上手く、君たちそっくりな絵を描いてくれるんです」
「そんなこと出来るもんか」
ぼくの声はたぶんひっくり返っていた。
一秒だって? そんな事はとても信じられない。
生きているみたいに描こうと思ったら、いくら時間があっても足りないくらいなのに……
「本当ですよ。特にこれなんかは1000万画素もあるんですから!
文明の利器はすべてを可能にするんですよ。この辺りでは見かけないかもしれませんがねえ」
「おい、嘘をついてるんだったら、森の王が黙っていないぞ」
番人は脅かすように言い、肘で隣の大熊をつついた。
その【森の王】が自分の事だと気付いたメイセルは、あわてて両腕を持ち上げて獲物を襲う真似をして見せたけど、
全然さまになっていなかった。
「嘘なんて言うわけがないじゃないですか。
これだから困るんだ、疑い深い田舎者は。(ここのところはぼそっと呟いたけれど、ぼくとネリには筒抜けだ)
さあ、撮りますからじっとして……そうそう、笑って!」
面白いことがあったわけじゃないのに笑うなんて、それが可笑しくて、ぼくらは結局笑い出してしまった。
でも、何かがうさんくさいと思ったんだろう、番人は旅人が小さなボタンを押したとき、べろっと舌を出していた。