【 雲 の う ま れ る と こ ろ 】



さわやかな五月の風が、ノルの絵日記をぱらぱらめくり

ちょっとだけ前のページを開きます……


……春の森はほんとうに気持ちがいい。木陰はひんやり、日向はぽかぽか。

優しい風に撫でられながら、新芽も花のつぼみも思いっきりのびをしている。


そのなかでひとつだけ、大きなユリがグラッサさまそっくりに腰を曲げていたから、

不思議に思ったぼくはユリに訊いてみたんだ。

ユリは首を曲げたままで苦しいのか、一気にこう答えた。


「それはね、ノルさん。ちょうどこの時間だけ、となりのシロツメクサさんが

わたしの陰に隠れてしまうからよ。

先週ひどく寒い日が一日だけあったでしょう。

それからシロツメクサさんずっと元気がないの」


「わかった。お昼前の一番いいお日さまを分けてあげてるんだね」


うなずきながらそう言うと、白いユリはしずかに笑った。

ぼくはユリやモクレンのこういうところが好きなんだ。


黄色のパンジーが集まってきゃっきゃっ騒いでいる。

はじめ愛想良く相づちをうっていたぼくも、だんだん眠くなってきた。



そよ風に吹かれながら眠ったせいかは分からないけど、

夢のなかで、ぼくは雲のうまれるところに行った。


辺りいちめんに光があふれていたけど、雪の朝みたいに目に痛くはないんだ。

花は見当たらないのに、バラやくちなしのような甘い香りが

どこまで走ってもいっぱいに広がっている。

虹の色があちこちで響きあってきれいに歌っていた。