ゲーオタと寝かしつけ

 
  息子が寝ない。

 ある夜のこと。23時も回りそうなのにいっこうに寝る気配がない。いやでもこの子は割とエケチェン時から寝るのが遅め。よく動くようになってきたから、体力が尽きないと眠らないのか、まさか旦那に似て完全なる夜型なのだろうか。イヤだ。三十路も過ぎて「夜の10時には寝てるよ!」と言いひと回りも年下の友人に笑われた私にそこは似てくれないものか?大人社会に進出していなすぎて24時とか0時とか言ったことない。それもかなりイヤだ。

 幸い息子は本当に手がかからない子で、よく食べアレルギーもなく(ココ!)保育園通いでも風邪もひかず夜泣きも滅多にしない。恐ろしいトラウマが難産後に直撃した身には、本当に息子のいる方角を聖地と定め身を投げ出し拝み倒したいくらいありがたい。奇跡的に授かったこの子をママちゃんは元気に産んであげるんだ、とその為だけに一人で耐え抜き産道から産むんだ初乳もとめちゃんこ頑張、寝室に祀ったお札にお祈りも欠かさなかった。旦那のモラハラにより完璧主義が行き過ぎ、激つらなのに頑張りすぎておかしなことになっていた。妊娠出産て何よりおめでたい事のはずなのにと、これもまた目の前が真っ暗になるトラウマでありなるべく思い出したくない――。

 いつものように、最近寝かしつけ担当を頑張っている(隣でいるだけ)旦那のほうが先に寝そうなので、マイ・サンはドラクエ派かFF派かを試そうと思いたった。

 まず「スリプルスリプル……」とやってみた。ママはドラクエ派なんだけど眠りの呪文が思い出せなくて。息子の耳元で囁いた、ではなく唱えたよね、じゅもん。「むすこLv.1」には効かなかった。ぜんぜん寝なかった。まだ経験値0に等しいはずなのに強敵な「赤ちゃん」というモンスターがあらわれてしまったようだ……これは「さくせん」変更だろうか。

 ところで、今どきの若い衆にはにわかには信じ難いだろうが「スクウェア・エニックス」て、元々別物だったのよ。ファイナルファンタジーの「スクウェア」とドラゴンクエストの「エニックス」。

 だいたいファイナルファンタジーを「FF」と略すか「ファイファン」かで派閥が分かれるくらい(ファイファンは地元では極少数派で馬鹿にされた)なのに、その二つ、ゲーム業界二大巨頭が合併すると知った日の騒ぎと言ったら、特別ゲーオタじゃなくてもかなりの衝撃だったはず。例えるならばトヨタとホンダがご結婚されるようなもんよ。まさに「天空の花嫁」。わたしゃフローラを選んだら「金に目がくらみやがって」とやられたが単に青い髪が良かっただけなんだけど確かにぽっと出より幼馴染だよね。ごめん、本当はルドマンに真っ先に話しかけたんだ。「なんと この私が 好きと申すか!」……好き、こんなドラクエが。

 はぁ~最初にやったRPGがいとこに借りたドラクエ5だったのよ。あのストーリー性、素晴らしい音楽。そこからゲーオタ一直線。楽譜も小説も買ったわよ。知った時既にかなりの高齢でいらしたすぎやまこういちさんと絵本作家の安野光雅さんがお亡くなりにならないかいつでもハラハラしていたけれど、二人とも亡き人に……。でも長生きされ、現役でい続けて下さりファンとして感無量である。

 マリオとかばかりやっていたから、RPGがよく分からないままプレイしていたけど、なんと突然パパス(主人公の父)が死んで、「パパスが……しん、だ……!!」あまりのショックに正座したまま固まり泣きすぎて30分くらいゲームを進められなかった。それをいとこに話したらもちろん、ドン引かれました。それからFFやらロマサガやらも買ってみた。ソフト高いからたまにしか買えなかったしグラフィックはリアルと見紛う程の今のゲームと比べたら笑っちゃうショボさなのだけど、色や音の制限のあるなかでの限界に挑戦した表現、自由さ斬新さ、練られた物語は衝撃的だった。

 そう、それはファンタジーとの決定的な出会いでもあったのだ……!(余談であるが近所のお兄さんに「いっき」というふる~いファミコンソフトをわざわざ何度も借りに行った記憶がある。小学生にやっとなったかという幼さなのに渋い趣味である。しかし百姓一揆を題材にゲームを作る発想もだいじょうぶかと思えてくるしその企画が通り普通に発売されてしまうのがまた愉快である。「一揆なのに一人」、もはや突っ込みどころしかないレトロクソゲーの世界には懐かしさを超え今でも心惹かれるものがある。)

 ドラクエの呪文が全然思い出せなくて最後の手段に出た、魔法使いママーリン。ママーリンは長生きしてるから一応Lv.41なのだ。これは十分ラスボスに挑めるLv.であることよ。

 あいう…から始まり、ま、み、む、め、も…は、ぱ、ば……とかやっていくの、名前思い出せないときあるあるの術である。で、ら、ら、ラリホー!「ラリホー」だ、思い出した!アハ体験。ドラキーが使ってくるのも思い出した。

「ママーリンはラリホーをとなえた! むすこには効かなかった!」

 それよりもむすこLv.1の「つうこんのいちげき」が喉に刺さって、MP(あるのだろうかそんなの)が尽きるよりも先に私は倒れた。

「105のダメージ! ママーリン は しんでしまった!」

「おお しんでしまうとはなさけない」

 と、こんな事を悪夢みたりボロボロなのに調子に乗り一人でやってしまい、旦那の方にラリホー効いて寝てました。違う違う、そうじゃない。というか貴方はいつでもどこでも眠剤なしで眠れて悪夢見ないから、罪滅ぼしに自分の悪夢を代わってくれ……。そのうちに息子も寝てくれました。ママがうるさい(元気ある時は)から眠れないのかな?ごめんね。

 ある意味旦那も私も頭がおかしいので、息子の将来がとても心配です。面白くてお料理上手なママには……長生き出来たら、なれるかもしれない……。


「ファイナルファンタジーって『最後の幻想』だけどさぁ、まさか15とかまで続かないよね~?」と笑っていた当時のゲーオタの卵、私たちよ……そのまさかだよ。


2023/01/15