不条理の道


注意

 筆者の一身上の都合により、ひとつも細かな描写ができないことを初めにお断りしておきます。



 ――初夏の風薫る爽やかな公園を巡る道を、ちっともそうは見えないが死にものぐるいで走行中の彼女たちの声を少し聞いてみよう。


「……思ったんだけどさ。あたしたち、蝶になる前にイモムシ形態のまま終わったら最悪じゃない?」

   「この道路で踏まれたりしたらマジ無駄死に」

  「ほんとほんと、もう木陰じゃないとあっちぃ……この体勢、熱が全体的にくる……夏やばいこわい」

       「先輩方みたいに優雅にヒラヒラ飛べたら、こんな距離一瞬だし楽しいだろうね」

「ねー。この歩き方もなんかさぁ、今まで当たり前すぎて気づかなかったけど、他の奴ら見ちゃうとちょっとみじめっぽさ感じちゃうよねー」

   「なんであんなにキレイになる前にこんな姿……世の不条理をつくづく感じる」

  「それを言ったらクワガタとカブト君もだよ、外出た途端チヤホヤ」

「成虫デビュー!羨まし~っ、わたしも早くしたーい!」

  「カブト君なんかは別に見た目なんか気にしたことないって言ってたけど、ホントかなぁ」

     「あれじゃん、角が大きければ、ケンカに強けりゃいいってやつだよ。男にありがち」

        「ちょいまち、クワちゃんもカブちゃんも女の子もいるっしょ」

     「そうだよ、偏見ダメ。外見年齢ジェンダー差別~わたしら身をもって知ってるでしょうよ~」

      「でも、私なんかは、メンタル弱いから、さ。正直、ずっと土の中に潜って隠れられていいなあって思っちゃう……」

  「それは思うよね。ああ、ほんと不条理、虫界の災難直撃。目を背けても着いてくるこの悲劇」

          「なぁにそれ韻踏んじゃってちょっとラップ入ってるのww でも気持ちわかりすぎる」

    「まあまあ、みなさま嘆いてばかりいないで、せめても美しきものへ降る定めの受難、とでも受け入れましょうよ」

   「さなぎから上手いこと羽化するにはその気品が条件なのかもねえ。はー虫生厳しい。」

          「たぶん何生もきびしいから。涼しい顔して生きるって大変なのよみんな。もうそう言い聞かせて踏ん張るしかないよ……」

        「そうだねえ、犬生とか猫生ってかなりイージーモードじゃない?っておもうけどねえ。なってみないと分かんないよね」

「ね、ここからどうやって羽が生えるのかアリとかから見ても不思議だろうけど、むしろこっちが聞きたいよ。どうなってんのこの身体、泣きたい」

       「葉っぱさんには悪いけど、お腹いっぱいむしゃむしゃして羽ばたかなきゃ。このままじゃ終われない!」

  「頑張ろ、あと少しでこの道路渡れるから」

      「確かこの先にあるもんね、食べられる草花。謎センサーで分かっちゃう」

            「けどこのひどすぎる不条理はいくら考えてもわからない……いくら……アレ?そもそも考える脳みそあるのカナ?」

        「あんた、暑さで壊れかけてるわよ。壊れかけのなんとかって歌、この公園でおじさんが熱唱してるの聴いたことある」

    「いいから、みんな潰されないようにね!意外と人間こんな小さいウチらのことビビって避けてくれるけど、自転車はヤバいからね」


  ――あのままでは終われないそうなので頑張って欲しいですね。しかし、わたくしあらゆる意味で限界が来まして、この中継はここで終わります。




 あまりにもイモムシ系が苦手すぎるために少しでもそれを緩和したかったのですが、気持ちは分かったとしても(?)多分一生、嫌いとかではなく生理的に無理です。
 ゴキブリでもつかめる私なのになぜ0.1秒写真を見てしまうだけで卒倒してしまうのだろうか。道路のど真ん中にいたアゲハの幼虫を見たウン十年前の衝撃がトラウマで消えないんだ。たまに悪夢にまで君たちを見てしまう……ごめんよ……。



2023/09/02