ほんとうを、探しにゆく――


ケンジとドラゴンのひみつ

 フマリはとても大きな国の王子さまでした。

 将来は「勇者」になるだろうとえらい予言者が、フマリが生まれた時に言いました。

 フマリはやさしい王さまとお妃さまとみんなとに囲まれ楽しく暮らし、すくすくと育ちました。お城には大きな脚の長い犬が六匹いて、おいしいお菓子やきれいなドレスをまとった女の人たちがたくさん、いつも音楽隊が楽しげに歌っていました。

 そして十五さいになった日に、つやつやした赤いリボンの付いた銀色の服に着替えた王さまが突然フマリに向かって、

「おまえは、勇者になるのだよ。もうりっぱなわかものだから、言い伝えのとおりドラゴン退治に行きなさい。」

 と言い、宝石や飾りのたくさん散りばめられた、細身の剣を手渡しました。

 フマリはうやうやしくそれを受け取り、勇者というひびきに胸をおどらせました。周りを取り囲む見なれたお付きのもの達が、静かにお祈りのような言葉を呟いてからいっせいに拍手をしました。

 こうしてフマリは長い間暮らしたお城を出て行きました。お妃さまはお城の外に出たことのない大切なむすこを心配して、十四人ものお供を連れて行かせました。王子さま(とポンキーとラザロ)の乗る馬車はぴかぴかの桃色で、後の三台は灰色がかったふつうの馬車でした。馬車を引く馬も、フマリたちのだけは一つのまだら模様もない真っ白でした。

 

 とはいえ悪いドラゴンがどこにいるのか皆目見当がつきませんから、しばらくはお城の近くを、それから西へ東へとそのねぐらを探して回ることにしました。

 豪華な馬車はシャンシャン鳴って道を通りました。

 どんな町や村に行っても王子さまで勇者になるフマリでしたから、大変な歓迎を受けました。泊まるのは決まってその町で一番豪華な宿でしたし、ごちそうだっていくらでも分けてもらえました。太っちょのポンキーは王子さまの五倍は食べるので、食べ物やワインのたくさん詰まった箱や袋はすぐに空っぽになりました。

 どこでも、顔もよく覚えていないお付きのものたちがラッパを吹くように得意げに、こう言いふらして回るのでした。

「これは我々のフマリ様が言い伝え通り偉大なる勇者となられる旅なのだ。しかと見届けよ。光栄に思え。おい、そこを退かんか、馬車の邪魔だぞ。」

 何だか自分のことを自慢しているみたいだなと、肝心の勇者になる予定の本人は見えないところで大きなあくびをしていました。

 

 さて旅はどのくらい続いたでしょうか。

 今何時やら何日たったのか、生真面目なラザロはいちいち教えてくれたような気もしますが王子さまは忘れてしまいまして、自分の国がこんなところなのかと馬車の窓から顔を出したり引っ込めたり、手を振ったりしていました。

 大人たちだけでなく、お城ではあまり見かけないフマリと同じ年ごろや、も少し小さな子も転がるようにきんきらの馬車を走って追いかけてきました。

「おお勇者さま、どうかなでてやって下さいまし、この子にご加護を!」

 と、うんと力を入れて赤ちゃんを窓まで高く持ち上げ頼みこむ母親までいました。フマリは自分がそんなに偉いことを初めて知ったような気がしました。みんな、見たことのない何の飾りもない、つまらない服を着て、お城の女の人たちのようなばら色の爪をしている人なんて一人もいないのでした。

 

 それに比べると、窓からのぞく森や湖は、太陽に照らされて、お城に飾ってあったどんな絵よりもきれいに見え、名前も知らない木や草花であふれていました。あんまりあっという間に通り過ぎるので、あれは何かとラザロにたずねるひまもないのでした。フマリはそんな時は、なんだか昼間も薄暗い、がらんとした自分の部屋に戻りたくないような気さえ、たまにするのでした。

 

 しかしどんどん旅が進むにつれ、だんだん道が狭くでこぼこになってきましたし、座りっぱなしでお尻も痛くなってきました。我慢がならなくなり、とうとうフマリは一緒の馬車のお供たちに言いました。

「おいおまえたち、ぼくは自分の足で歩きたいぞ。いい加減この馬車には飽き飽きした。もう降りるぞ。」

 そうして、わたわたとするポンキーとラザロをぐいと押し退けて馬車の扉を無理やり開けました。いつもお供が開けてくれるのでフマリが開けたのはこれが初めてでした。

 

 ギイと、思ったより重い扉を押し開けると、フマリは一瞬、驚いてしまいました。何に驚いたのかもわからなかった目を見開いた王子の頬に、甘い風がスッと通り過ぎました。

 かたい石畳でもない、ぬれたようなじゅうたんも敷いていない地面はなんだか冷たいような温かいような不思議な気がします。そこらじゅうに石ころがたくさん転がっていました。みんな大きさや形や、よく見ると色までも違いました。

 (なかなか、外の世界はおもしろい。)

 何度か足踏みして、銀色の靴の少し高いかかとが邪魔に思えました。

           

 そうしてフマリは疲れたら馬車に乗り、それ以外は自分の足で歩くという(お供たちがこっそりぶうぶう不満を言うのを知っていましたが、王子のようにえらくないので気にしません)そんな旅を楽しく続け、とある村に立ちよりました。

 変わった匂いのする柔らかい土を踏んで歩いていますと、畑(というのだと物知りのラザロに教えてもらいました)に男の人がいましたので王子さまらしくあいさつしました。

「ぼくはフマリという。おまえの名前はなんだ?」

「はい、わたくしはケンジといいます。すてきな格好をしているおぼっちゃんですね。」

 ケンジというわかもの(少しは年をとっているみたいでした)は、額の汗をぬぐってからにこにこして帽子を取りました。

 フマリは光るバッジが見えるよう、うんと胸を張って、

「おぼっちゃんではない。王子だ。将来ぼくはこのあたり全部の王さまになるんだぞ。」

 と言いましたが、ケンジはますますわらいました。慌てて着いてきたお供たちも、フマリもかんかんです。そんな態度は将来の王さまですから許しておけません。みんな、王子さま、まして勇者になる人には、もっとぺこぺこしなけりゃならないのです。

「えい、なんだおまえは。にやにやして。この剣を見ろ。ぼくは勇者になるために、これから悪いドラゴンを倒しに行くんだぞ!」

 フマリが腰に下げた剣をシャンと鳴らして引き抜きますと、ケンジはわらうのをやめました。

 そして少し顔をしかめて、

「そんなぶっそうなものはどこかにやってしまいなさい。代わりにこれをあげますから。」

 ケンジはさっきまで自分が畑を耕していた鍬をにょっきと差し出しました。これにはフマリも、それよりもっとお付きのものたちが驚きました。

「第一、そんなお飾りみたいな剣でドラゴンの硬いうろこを引き裂けますかね。短くてとても届きやしませんよ。」

 ケンジは今度は真面目に剣の長さを測るように茶色い両手を広げました。

 確かにそれはそうかもしれない、とかしこい王子は考えました。お城の壁に描かれていたドラゴン退治の絵は、恐ろしくも勇敢でしたが、そのドラゴンったら強い英雄よりも何倍も背が高かったのを思い出したのです。

「ふうむ。おまえの言うとおりかもしれない。悪いドラゴンはこれでは倒せないような気がしてきた。おい、おまえ達、この者に何か褒美を与えよ。新しい武器の代わりに。」

 それを聞くと、先ほどまでお城のくまのぬいぐるみのようにのっそり立っていたケンジは慌てて帽子を持つ手を振りました。

「お代などけっこうですよ。」

「なら交換しよう。この剣と。」

 お付きのものたちの目玉はそろって二十八個が落ちそうなくらいまん丸になり、

「いけません!いけませんですフマリ様!そのような貴重な宝物をこんな得体の知れないものに渡すなど王様が何と言うでしょう!」

 フマリはむっと口を曲げてもう誰だかも知らないその人と、お供全員をにらみつけました。みんな旅の間中、何をするにもいつも口出しするのでうっとうしくてならないのでした。

「父上はぼくの言うことに反対したことなどないぞ。ぼくは王子で勇者になるのだからおまえたちのいうことなど聞かない。口出しするな、これは命令だ。」

 お父さんの真似をして言ってやると、みんな、これにはぐっと黙り込んだり目をパチパチやったり、しまいには下を向いてしまいました。フマリは自分が王さまの次にえらいんだと嬉しくなり変な笑いを浮かべました。

 どこかでもおおと、知らないけものが鳴きました。 

 

 その村を出てからというもの、フマリは前よりも王子さまが板につき、たいそうわがままになりました。頼んだ食事を一口もたべずにいらないと下げさせてみたり、ポンキーに腹踊りを命じたり、ラザロが本を読む最中にいねむりをしたり、お付きのもの達がわざと嫌がることをしていたのです。靴を遠くに放り投げて拾わせたり、汚れた鍬をぶんぶん振り回すのも大好きでした。

「王子さまがそんなみっともない。第一土だらけでございます。お願いですから私どもにお預けください」

 そう言われれば言われる度に、持つのが本当は疲れてもお付きのものに渡したくなくなるのでした。

 こうしてフマリはいつでもケンジの鍬を持ち歩くようになりました。

 ますます風が冷たくなってきたある白けた朝に、石ころばかりの道の真ん前で丸まっている毛布のようなものがありました。先頭を走る馬車の御者がどかそうとすると、もっそりと動きました。なんとそれはとても年をとった女の人でした。

 フマリはまだ眠い目をこすりおもしろそうだなと(お供はあいも変わらずうるさいので知らんぷりをして)話しに行きますと、そのおばあさんが北の山の方を差して言いました。枯れ枝のような人差し指はやけに曲がってぶるぶるふるえていました。

「あ、あの辺りの洞窟には人を食う化け物が出るらしい。雷みたいな悪い竜のうなり声が聞こえるんだとさ。うわさではないよ、本当さ。みんな、あすこに行くとただの一人も帰ってこない。」

 目が悪いのかフマリを見ても王子と気付かないのでしょう、顔をじいっと見つめ、お妃さまでも来ない近さでこう言いました。

「かわいいぼくちゃんや、お前さんみたいな年ごろの子は怖いもの見たさで、絶対に近づくんじゃあないよ。化け物の美味しい餌になってしまうからね。いいね。ばあばとの約束だよ。」

 フマリは髪のボサボサで目やにだらけのこのおばあさんが怖くてたまりませんでしたが、もっともっと恐ろしいものを退治しに行かなくてはならないのだと思うと、お腹の下の方がぞっとしました。

「やりましたね、フマリ様!やっと人食いドラゴンの居場所を見つけましたぞ。さあ、いよいよこの旅も終盤です、さっさと片付けてしまいましょう!」

 ポンキーが興奮して、たくさん唾を飛ばして両手を揉んで大喜びし、他のお供たちも勇者さま!勇者さまあ!と拍手と歓声を上げました。

 フマリはそうだ、このために来たんだぞとぐっと口を結び、握りしめた拳を高くつき上げました。でもなんと言っていいのか分かりませんでした。

 いつも頭に乗せている細い冠から耳の横に、冷たい汗が流れ落ちましたが、誰も気づきませんでした。フマリも気づきませんでした。

 そうして愉快な旅はほとんど終わろうとしていました。

 おばあさんが教えてくれた北の山に行くと、ゴツゴツとした岩肌にフマリ達が一度に二人通れるかという狭い穴がありました。馬車を降りうんしょと十五人みんなでそこに入っていきますと、すぐに小さい部屋のような洞(ほら)に出ました。

 一番奥には不気味な緑色のドラゴンが、たしかにいました、グルグル唸ってこちらを見ました。うろこは鉄の細工のように一枚一枚いかにも硬そうで、目は黄金色にギラリと光り、なんと恐ろしい姿か、みんなヒッと震え上がりフマリを押し出すようにしました。

「おまえだな、悪いドラゴンというのは。ぼくは勇者だ。やっつけてやる、覚悟しろ!」

 鍬を振りかぶって勢いよく言いましたがなんだか言いたくないような気がしました。フマリもわかものとはいえまだほとんど子どもでしたし、怖くなかったと言ったらうそになります。わずかにひざも震えているのをお供たちに分からないようにぐっと力を入れました。

「ついに勇者さままでいらしたんだ。」

 悪いドラゴンは顔をほんの少しだけもち上げて言いました。やっとこ出したようなそのガラガラ声にフマリ達は大変驚きました。ドラゴンというのはとても古くからいて、人間よりもかしこいなどとお城の本に書いてあったのですが、そんなことは誰も信じていなかったからです。

「言葉が分かるのか!それでも人を襲うなんて悪いやつだ。」

「いいえ、言い訳になってしまいますが、みんながわたしを悪い悪いといきなり襲いかかるのです。ちがうと言いたいのに聞いてもくれないんです。」

「なんだって?」

 王子の高い声が洞窟にりんと響いたあと、悪いドラゴンはガサガサと静かに話し始めました。

「わたしは人を好きで食べるのではございません、人間が斧やら剣で斬ったり刺そうとするのですから、でもでもわたしだって生きていたい、殺されたくないから代わりに人間さまを殺さなくてはなりません。そうしてもったいないからお腹の足しにいただくのです。そうすると」

「わかったぞ。ますますみんな、おまえのことを『人食いドラゴン』『悪いドラゴン』というんだな。そうだな。」

「さすが勇者さまですその通りです。大変ひどいのですが単純なことなのです。今お話ししたとおりです。」

 悪いドラゴンはぼろぼろ涙を流しました。とても大きな粒でしたので、フマリのマントまで泥がはねて汚れました。お付きのものたちは慌てて、今度はフマリを遠ざけようとしました。

「困ったな。ぼくはおまえを退治しにきたのだよ。ぼくは勇者にならなければいけないし、でもおまえを殺したくはないなあ。」

「勇者さま勇者さま、わたしはそれ以上に貴方さまを食べたりしたくないのです。もうだれの事もです、同じです。どうか、どうかわかってください。」

 のどに詰まった何かを吐き出すように言うと、悪いドラゴンはおいおい泣きはじめました。フマリは髪の毛までぬれました。

「わかった、でもおまえは人を食べないなら何を食べる。」

 緑色のけものは、はっと顔を上げて、

「わたくしどもも生きていくのにはねずみやらもぐらなど食べます。外にいたら野うさぎやらも食べるでしょう。でも何もいない時はこんなずうたいですけれども少しの水をすすっても何日かは生きられます。」

 口早にこう言いました。フマリも急いで答えました、もうこの大きなけものがお城で一緒に暮らしていた犬たちとおんなじように、お腹が空いて喉もカラカラなのが分かったのでした。

「おまえはどうして欲しい。ぼくは王子だから何でも捕まえさせて持ってきてやることもできるぞ。お供たちに近くの湖から水を運ばせるのだって、今すぐにだって……。」

 金色の目が最後の涙をこぼして、ゆっくり、一度きりまばたきしました。

「いえ、勇者さま、何も欲しくはないのです。ただただここから出してほしいだけでございます。わたしは小さな頃この穴蔵に捨てられて、その後大雨で入口が狭くなってしまいまして、きっと十回はこんな冬がめぐったでしょう、その間にどんどん大きくなって今ではどんなに背骨を曲げてみても手足を縮めてもどうやっても出られないのです。」

「そうか。おまえの望みはたったそれだけなんだな。」

 ふうむと王子は首をひねりました。王様に褒美をねだりに来る立派な服を着た人たちを思い出して、それに比べてこんなにも大人しいこのけものがどうしてばけものなどと呼ばれるのかよく分からなくなってきました。

 

 フマリは考えるのをやめ、もう自分でこの気の毒なけものを出してやろうと、持っていた鍬を洞窟の壁にえいとぶつけました。するとどうでしょう、ゴロゴロと少しずつではありますが、硬い壁が崩れ落ちていくのです。なんだか、どこかの町だか村で、こんなことをしているのを見た気がしたのでした。

「見たかお前たち。剣なんかより、こっちの方がよほど役にたつ。ケンジの言った通りだったな。」

 フマリはもうドラゴンの涙で体ぜんたいびしょ濡れですし、この上どんどん絹のマントまで手までも汚れてはと、お供たちはやっきになって止めようとしましたが、面白いように壁が削れるのでやめられません。

 フマリはいつも鍬を持ち歩いていたのでいつの間にか、お城にいた頃よりずっと力持ちになっていたのです。そうして落ちてゆく太陽の光が狭い洞窟にさすと、さっきまで暗くてよく見えなかった固まった土の壁に、この緑のけものが爪で引っ掻いたような跡がたくさん、たくさんあるのがわかりました。

 あっという間に悪いドラゴンが通れるほどの広い穴ができました。

 フマリは額の汗をぬぐって、

「どうだい、これくらいなら通れるだろう。思っていたより大きくないんだもの、おまえは。」

 と、わらいました。お付きの一人のラザロがおや、あの畑の若者にそっくりだと思いましたが王子さまには失礼にあたるので言いませんでした。

 悪いドラゴンは、どうしていいやら、痩せた手足や尻尾までばらばらにおかしな動きをしています。

「ありがとうございます、ございます。わたしの爪や手がこんなに尖っていなかったらよかったのに!貴方さまの手を握りたい。ここから出ることがわたしのただ一つの願いで、鳥や雲にお月様にどれだけ願ったかわかりません。でもどうしても食べるのをいくらやめてみても、わたしの体は大きくなるばかりだったのです。」

 フマリこそもうこの大きなけものが可哀想になって、どんなにか抱きしめてやりたいと左胸の奥がぎゅっとなりました。もう勇者でないのだから泣いてもよいと思いましたが、がまんしました。自分や、王さまやお妃さま、お城で飼っている犬たち以外のものを、はじめておんなじように大切に思いました。

「本当に人間たちには悪いことをしました。どうしてお詫びをしてあげたらよいものでしょう。」

「いいやおまえを斬ろうとしたものが悪い。ちゃんと話を聞かなかったのだからね。ぼくは勇者にはなれなくても王子だから、その者たちのためにどんな豪華なお墓でも建ててやれるよ。だからもう飛んで行きなさい。どこへでも!」

 悪いドラゴンは何もしゃべれませんでした、ぐっと喉を鳴らして、何度かくたびれた羽をばたばたやり地面を蹴って飛び立ちました。ごんと洞窟が震えました。

 そうして最後長い首をぐいっと曲げ振り返って高らかに叫びました。

「貴方こそが勇者さまです!」

 それからは一度も振り返らずただ真っ直ぐに、西日の沈みかける夕そらに飛んで行きました。

 フマリとお付きのものたちは、それをポカンと口を開けてずっと見ていました。夕陽に照らされたうろこが一枚一枚、羽ばたくたびにルビーのようにキラキラとかがやき、どんな鳥よりも大きくて立派で、美しかったのです。

 後ろの方で誰かが、小さくすすり泣く声が聞こえました。

「さいしょ、あいつは飛ぶのが下手くそだったね。こんなせまい所にいて、羽も広げられなかったんだ。でもうまく飛んでいったね。どこに行くんだろう。きっと、ぼく達の国よりも遠くだろうね。悪いドラゴンはどこにもいなかったよ。」

 フマリはそう言ってから、帰って王さまとお妃さまに何と話そうかと考える前に、お付きのものみんなに止められても、ますます汚れたこの鍬を真っ先に宝箱に入れようと決めました。

 

             

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