【 恋 す る 魔 女 】
お日さまにぽかぽか照らされた、ここは大魔女グラッサさまのうちだよ。
長老の樹から少し東に行ったところにあるけれど、ふつうの旅人じゃまず気付かない。
「人間界では、2月14日は告白にうってつけの日とされている。
ちょこれいとなる食物、或いは薔薇の花束など添え……」
窓辺でぶつぶつ言っているのは、いじわるなウィッカ!
一緒に座っているのが猫じゃなくてキツネやリスだったら、ほうきで叩かれるだけじゃすまないよ。
あの子は動物が大嫌いなんだ。
「何よこれ、かなり古い時代に書かれた本みたい。役に立ちそうにないわね!」
ウィッカが次に手に取った本は、『惚れ薬…氷も燃やす神秘の力』
中身は難しい文字で書かれていて、ぼくには読めない。
「また、惚れ薬かい? ウィッカや」
大なべをゆっくりかきまわしながら、グラッサさまが言った。
今日のグラッサさまは普通のお婆さんの姿だけど、
若返りの魔法をかけた時には、女王様にも負けないくらいきれいなんだ。
「そうよ。悪い? 今度は絶対に失敗しないわ。絶対に」
ウィッカは怒りでぷるぷる震えていた。そのわけをぼくは知っている。
ウィッカは七回目でようやく惚れ薬を作るのに成功したんだけど、
番人の紅茶に入れる寸前で食いしんぼうのメイセル―
番人と仲良しのちっちゃなクマさ―に飲まれちゃったんだ。
どうなったと思う?
グラッサさまに薬を作ってもらうまで、メイセルはじゃれたり舐めたり、一日中ウィッカにべったり。
メイセルがやっと正気に戻ったとき、ウィッカは傷だらけで
せっかく作った惚れ薬は一滴も残っていなかった。
それからウィッカの動物嫌いはますますひどくなったんだよ。
「あのクマのせいで二ヶ月無駄にしたけど…ま、効き目があるのは分かったし
もう一度材料集めから始めるわ」
大なべを混ぜる手を止めてグラッサさまが細い杖を取り出すと、 ぱっとウィッカが顔をあげた。
まだ杖を持てないウィッカは、グラッサさまの杖の先から光の網がひらひら踊るのを
眩しそうに、でも手をかざしもしないでまっすぐ見つめている。