片道切符


ああ、来年の今ごろが楽しみだなあ
 もし、生きていられたら)
ぼろぼろの身体の内から湧き上がって来た思いを捕まえて
それはなんと驚くほど軽やかな羽を持っていることか
逃げることのない蝶のはばたきはそよぐ心地よい風

人生の半分近くが過ぎようというのに
そんなことを思ったのは生まれて初めてだった
誕生日が来るたびに嫌で嫌で
悲惨でばかばかしくてわらった

みんなが楽しい青春時代を送るころ毎日毎日
(今年こそは何としても死ななければ)と念じ
あらゆる死に方を試していた少女
メンヘラどころの騒ぎではない
死への特急機関車だ

生きていることの罪悪感を植え付けられ
夢や希望を持てば握り潰され
心を踏みにじるもの達を瀕死で助け感謝される事もない
この牢獄から逃げるには死への特急列車に乗るしかない

孤独と後押しするだけの絶望少しの勢いとがあれば誰でも乗れる
優しい黒塗りの蒸気機関車
行先など何処でもいい
「ここ」でないのなら

それは片道切符だからなお優しい
乗り合わせる理由はそれぞれ違うが似た者同士
顔も見ないし挨拶も必要ないが
愛想笑いももう要らない
はじめて心から泣くこともできる
その涙は蒸気となり
心の臓を焦がした灰色の煙は立ち上り
哀しみの汽笛が最期の別れを告げる

本当ならば好きで乗りたくはない列車
きれいな景色も見えない列車
きれいごとの虚しさだけが通路を擦り抜け
拳ほどの僅かな明るい思い出を数える
寂しい旅の終着駅で
誰か待つ人はいるのだろうか

そんな哀しい旅を終点を与えたもの達を
赦すとかそういう話ではなく
慰謝料、もしくは賠償金、養育費、賃金
全部だろう?
まとめて払ってくれないか
ズタズタにされた心は癒されないが
何も戻ってはこないが

無かったことにしていいのか
こんなことを
奴隷のほうが時代によってはまともな扱いを受けているのに?
一族みなが奴隷階級だったりするのに?

おかしいだろう?
お前たちはわたし達の犠牲により
産まれた時から生贄にしたことにより
みな楽しくわらって生きてこられたのだから

反省も自覚もない
捕まることのない犯罪者に手渡されるのも
片道切符なんだよ
どんな愚かものだって行先くらい知ってるだろう?

地獄というのさ

confession of love

He who gains for himself more than he who steals,

And he who gives is even more precious.


It is he who is the poorest and the richest.


More than any gift of great price,

It is the letter that will remain in your heart at the end of your life.


It doesn't cost a penny to send a heartfelt message.

All you need to compose a kind word is a feeling of being close.


What warms us more than any beautiful dress,

It is a comforting embrace.


It takes no effort or time to hug someone else,

To sympathy and affection, share the same pain

There is no better medicine than that.


You can give and give and not a single thing less,

but instead, an endless increase

That's what people call love.


I have nothing, but I keep on giving.

There is no greater happiness in the world.


Then I, who am miserably poor, will become rich.

Then I, wounded and sick, can be healed and filled with strength.



愛の告白


奪い取るものよりも

自ら得るものが

与えたもうものは

さらに尊いのです


それこそが一番貧しく

富むものです


どんな高価な贈り物よりも

添えられた手紙の方が

最期に胸に残るものです


まごころを送るのには1円も要りません

優しい言葉を紡ぐのに必要なのは

寄り添う気持ちだけです


どんな美しいドレスよりも

わたしたちを温めるものは

慰めに満ちた抱擁です


誰かを抱きしめるのには苦労も時間も要りません

労り慈しみ同じ痛みを分け合うこと

それほど素晴らしい薬はありません


与えても与えても

一つも減らずに

むしろ限りなく増えてゆくもの

それを人は

愛と呼ぶのでしょう


わたくしは何も持っていませんが

与え続けます

それ以上の歓びなど

この世にないのですから


そうして惨めに貧しいわたくしは

富めるものとなるのです

そうして傷負い病み苦しむわたくしは

癒され力に満ちたものともなれるのです

病み伏した身に

病み伏した身に

近づく死の影

ベッドにふる

まあるい白雪

天からふりしきる

哀しみの恩寵

朧にうかぶは
取り囲みわたくしを覗き込む

懐かしき優しげなる
大きな猫たちのすがた


心臓を庇いて

力なく寝返りを打てば

耳をいっぱいに塞ぐ涙もて

報われぬ楽の音ようやく止みぬ

罪と罰、のち雨


どうか私を恨んで下さい

思う存分、飽くまで憎んで下さい


もう「良い人」をしないで下さい

せめて私の前では嘘をつかないで下さい


信じた愛の証に


そうすれば貴方より

目を覆いたくなるような酷い仕打ちを繰り返し

貴方をなぶり続けた私の事を少し赦せるのです


もうロザリオに触れる資格はありませんでした

白い衣はとうに真っ赤に染まっていました

私と、それよりも貴方の血のほうが

だいぶん多い事を知りながら


自分の非道さに気付かない卑怯さにさえ

気付かないふりをしようとして

しかしそれは刃を振るう一瞬しか私を欺けず

更に苦痛が降りかかるばかりでした


被害者であると主張し続ければ

まるでいくら相手を攻撃しても良いかのような

傲慢極まりない振る舞いで


必死で罪を償おうとしている貴方の

傷ついた心に塩を塗り付けていました


責めてもいくら傷つけ返しても

ちっとも癒されないことに

優しく笑いかけ笑い返してもらう方が

よほど幸せではなかったかと

やっと気づいた時にはもう遅かったのです


ひとを変えられないように

私をここまで変えたのも

ほんとうは貴方では無かった筈なのに


貴方の傷つく顔よりも

よほど醜いのを分かっていたから

鏡から目を背けていた筈だのに


せめてもの幸いは

私の罪にきちんと

それ相応の重い罰が

貴方自身の手で下された事です


私はこれ以上ない程に傷つき痛み

償えない罪の代わりに罰を頂いたことを

やっと遠ざかっていた神に

感謝を捧げることができるまでに弱りました


虚勢を張らずに素直に

真実の言葉を

謝罪を口にすることは

心から懺悔するには


大切なものを完全に失ってからか

若くは自らを殆ど亡ってから

漸く可能になるようです


後悔と自責をこんなにも

快く感じたのは初めてです

それは裏切りではなかったから

正しく真に受けるべき酬いでしたから


どうか恨んで下さい

心ゆくまで


過ちが肋の抉れた屍を超えて

遠くにゆくまで


どうか悲しまないで下さい

出来るなら少しの涙だけ


唯一の生き甲斐を宝を居場所を

自ら壊してしまった愚かさに


一人であんなにも重荷を抱えた貴方だのに

一人では何にも耐えられない弱さに


あれほど願い砕けた夢に

もう二度と返らない幻に


いつまでもいつまでも

ひと月ばかりの短すぎる偽りを

時が止まればと永遠を願ったあの夜を

信じて待ち続ける乙女の亡霊に

貴方のために切れない長い髪に


一本だけの不自然に染められた

青いカスミ草だけを

ついに潰えた心臓に添えて下さい

それだけが私の人生です


捧げる人もいない花束を

空に投げてくれるのは

きっと幼いあの日笑顔で手を振ってくれた

森の緑を駆ける透き通った風の精です



(努力しても努力しても

 駄目だったのだと――

 そう諦めた瞬間降った線のように細い雨は

 部屋の中なのに右腕に落ちたあの雫は)


(こんな私の為に泣いてくれる

 待っていてくれる誰かが

 ここではない世界にこそいるのだと

 もう励ましや助けすら求められないでいる

 私が


 欲しかった最期の慰めでした)


Through my sin, all your faults are forgiven, 

Through my sin, all your faults are forgiven, 

Except for one horrible lie.

"I love you more than anyone else."


Until the only you are gone,

"I am so strong."

I was able to make such a tremendous mistake.

白い鳩

おや、そこにいるのは

まあるい鳩


ずいぶん弱って顔をおおって

地面にたおれて

「もう、いじめないで……」って

ぷるぷる震えている


この子は、すぐわかった


あの夢で大群の中から

私めがけて

まっすぐに飛んできた

可愛い可愛い鳩だ


暗い小学校の空をうめつくす

流れる群れの中からまっすぐに

嫌そうな悪魔たちの前で

わたしの左腕にとまった

白い鳩、彼だ


こんなにも弱らせて

子どものようなまんまるの笑顔を

そのふかふかした羽の輝きを

羽ばたく力を奪ったのは、私


あんまり傷ついていて

見ているのがかなしくて

「妖精さんがくれたおくすりだよ」と

小さな小さな容れ物を置いた

なんだかゆるいはちみつみたいなもの


それを飲んでゆっくり休めば

そうっとしておいてあげたなら


可愛いあの鳩はまた

にこにこしながら飛んでゆける

あの人の青い空を


私が大好きな

ひろがるあの水色を

二番目の夜に

いつも恋ばかりしていたよ

初恋は赤ちゃん時代にすませたし

勉強なんか大嫌い

宿題もしない ううん出来ない

それでもオシャレと美しい歌 踊りが大好き

だってわたしはお姫さま


ださいおかっぱ頭でも

ドレスを一枚も持っていなくても

パジャマを着て行かされて学校で笑われても

お得意の空想のなかではいつだってわたし

透き通った羽の妖精のお姫さま


裸足できれいな蝶を追いかけて

走り回っていたの花の園

優しく濡れた少しだけチクチクする

芝生のうえを手を広げて踊って

誰かを好きになるってそんな気持ち


通りかかるだけで

会える日が近付くそれだけで

どんな映画より胸が高鳴る

なんて素敵なストーリー


『ボーイミーツガール』

まさにそれ

別にボーイとボーイでも

ガールとガールでも

どんな動物だって恋をする

誰でもいいわけじゃないの

選ぶの選ばれるの

ときめきって本当に魔法のことば


でもいくら好きと言っても言われても

結婚する人以外は

皆終わってしまうの

ハッピーエンドにはならない

どんな形でも

振っても振られても

離れ離れ 戻ることは無い

当たり前のことでも

そう気づいた時恐ろしくて


ね 電話もしないで会いに来たの

声も知らないで会おうと思ったの

あなたが初めてなの


ね お洒落してなくてメイクも崩れてて

それでもあの夜会いたかったの

あなたが初めてなの


もう騙されてたのね

やたらうまい紹介文やら

わざとらしい自撮りじゃない

小さい小さい笑顔に


ヨレヨレのTシャツにジーンズ

第一印象が「岩尾」だなんて

誰にもいえなかったわ

丸顔で童顔のくせして

夜だから髭が伸びてて

笑っちゃったの


お目当ての花火はちっとも見られなかった

でもね

いつも食べられない私がたくさん食べられたの

どうしてかな

後で気づいたんだけれど

「ご飯が美味しく食べられる人と結婚しなさい」

どこかでそう読んだことがあるのーー


運転中いきなり手を繋いだら

「誰にでもそんなことするんですか?」

いかにもモテない人のセリフ

固まって声震えちゃってさ

可愛くて可愛くて

「誰にでもはしないよ、したい人にだけ」

そんなの当たり前じゃない

当たり前じゃない……

分かってて聞くのね

だってとっても綺麗な手なんだもの

暗くて顔はよく見えないけど

自分で気づいてるのかなあ、この人

こんな手ならどんな楽器も弾けるなあ


帰りに道間違ってイライラしてたわね

私の方が完璧主義なのに

そんなつまらないことで焦らないで

初めての道なのに気にしなくていいのにって

何かフォローしたわ

忘れちゃったけどあなたあの時

少し私を好きになったんでしょう

車の揺れのせいじゃなくて

心がすこうし

こっちに傾いたんでしょう


そんな聞こえないはずの音が聞こえた……


恋じゃないけどね

きっとまだ

恋じゃなかったけど……


だってわたしその頃もう

一番きれいな時の

五分の一もきれいじゃなかったもの

あなたより一回りも年上で

まだその時はそんなに気にしてなかったけど……


帰って男友達に

「初めてなのに5000円も割り勘よ!ありえない」

なんて愚痴って

「あの人はないわ」

本当はお金なんかより他に気になることがーー

だからもう会わないって送ったのに


どうしてあんなに必死で引き止めたの

その時別れていたら離れていたら

こんな事にならなかったのよ

こんなに傷つかずに

こんなに愛さずにすんだのよ


知りたくなかったな

ただずうっと彼女がいないから

それだけだったなんて


今頃になってさ

愛されてなんかいなかったなんて

知りたくなかったな


あなたが付き合う前にした約束

ひとつも ひとつも

叶えてくれなかったのに


私があんなに夢中になった人は

どこにも居なかったなんて

何よりも気づきたくなかった


結婚したのに終わる恋もあるなんて

知りたくなかった

もう恋じゃなくて私には愛だったの

生まれて初めての


神様の前で永遠を誓ったのに

私たち神様を裏切った

でもあなたが私を裏切った


王子様なんてどこにもいなかった

そんなの誰より知ってたはずなのに

あなただけは違うんだって信じてた


もう信じるのはやめないと

よく言うでしょ

誰も信じてはいけないの

自分とお金以外は……

……そんなに悲しいことってある?


あなたそっくりの手の人を探して

デートして そうすれば

帰り道泣かないですむのかな


「上書き保存」ってペンで書いた封筒に

何もかも詰め込んでしまえば

いつか忘れたフリできるのかな


二度と開けてしまってはだめ

想い出の封筒を抱きしめてはだめ

文字が滲んで消えてしまうから


なんであんなにしゃべらない人が良かったのよ

馬鹿じゃないの

学校でちゃんと勉強しなかったから?


違うわ

他の人の100よりあなたの1がよかったからよ――


あの笑顔が他の誰かに向けられるなんて

あの長い指が他の誰かの手を取るなんて

あの唇が――

考えて泣いてはだめ

絶対にそうなるのだから

それでいいんだから


あの人裏切ったのよ

あんなにかっこよくなってさ

私みたいに惨めに老けて

ひとりぼっちで悲しくなることもないのよ

そんな裏切りってある?

一番の裏切りだわ


時間を返してよ!

返してよ!

巻き戻してよ!


でも戻りたいのは出会う前じゃない

まだ引き返せるあの時でもない

騙されてたのに 勘違いなのに

戻りたいのはたった一瞬

あなたに恋した二番目の夜に